本の虫。
私が本の虫になったのは、高校入学式の帰り道でした。
駅前の本屋に立ち寄って、手にした、一冊の、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』の文庫本でした。
ヘッセの自伝的な、この小説がきっかけで、私は、本の世界に迷い込んでしまったのです。 そして、その後、本を手放せないなく成ってしまったのです。
徒然草が教えて呉れた、見苦しくない本。
兼好法師の『徒然草』
それは、高校の古文の授業で、兼好法師の『徒然草』72段の、授業を受けた時のことでした。
そこは「賤しげなる物」の段で、「下品に見える物は、調度品の多さ、硯に筆の多さ、持仏堂の多さ、庭の石や草木の多さ、家のなかの子・子孫の多さ、人に会った時の言葉の多さ、善行を行う方法の多さ」、に続き、
|
「多くても見苦しからぬは、文庫の文、塵塚の塵」と続いていました。
現代訳にすると「多くても見苦しくない物は、室内で書籍を運搬する、文車に積んだ書籍と、ゴミ捨て場のゴミ」となるようです。
何で兼好法師がゴミが見苦しく無いと、言ったかは分かりませんでしたが、
本はいくら多くても、良いんだと解釈してしまったのです。
それからと言うと、毎日のように本を買い続けて、朝から晩まで、授業中も読んでいました。
学生手帳に買った本の題名を書き続け、30代後半になる頃には、その数は6,000冊になりました。
このペースなら、定年までに、1万冊になるだろうと思っていたのです。
|
作家、森本哲郎さんの言葉。
「万里の道、万巻の書」
「万里の道、万巻の書」私の好きな言葉です。この言葉を教えてくれたのは、作家の森本哲郎さんの本でした。
たくさんの書籍を読むことは、世界中を旅するようなもの、本こそが私の世界だったのです。
そんな私が、厄年近くになった頃、体調が良くなく、散歩をやりだしたんです。
時には遠方まで車で出かけ、森や林の中をウォーキングしていた時、渓流沿いの川原で、釣り人に出会いました。
何だかとても面白そうに見えたので、「釣れますか」と尋ねると「大物は難しいけれど、小振りの山女魚なら、結構釣れますよ」
この一言がきっかけで、私はインドア派から、アウトドア派に変わりました。
それからの私は、購入する本の内容が釣り一色になりました。
|
神田神保町は、本好きのワンダーランド。
神田神保町の古本屋街。
お目当ての釣りの本は、近所の書店ではなかなか無くて、古書店へ行って見ても、あまり見かけませんでした。
そこで、神田神保町の古本屋街へ、足を運びだしました。
そこで、自然や動物関係の書籍と共に、釣りの書籍を専門に扱っている古書店に出会いました。
それからは、毎月通っては、お目当ての本を買っていましたが、
釣りの方も忙しくなり、段々神保町から足が遠ざかり、それと共に、本から釣りへ完全に移行してしまいました。
そして、あんなに好きだった本を、買わなくても、気にならなくなってしまったんです。
神田・神保町・御茶ノ水本 我が街の暮らしを3倍楽しめる本 貪欲に遊び学ぶ大人たちの聖域 (エイムック)
|
本の虫がアウトドア派に転向。
釣りに夢中になっていた頃。
釣りに夢中になっていた頃は、年間100日ぐらいは釣りに行っていたと思います。
元旦に出掛けた時には、さすがに、自分でも、どうかしてるんじゃないかと思いましたが、
他にも、数人の釣り人が来ていて、釣りバカが、他にもいるんだと呆れました。
それと同時に、今度は本棚にも、ロッドやリールなどの、釣り道具が侵略して来て、
少し本を、ないがしろにしていたかもしれません。
釣り道具が本棚の前を占領し、奥にある本には、もう目を通す事も、無いんだろうと思い始める、自分がいました。
こうして、万巻の書を目指していた筈が、釣りの世界にはまり、自分が、こんなにも変わるもんだと驚いたのです。
更に、中年になると老眼が始まり、細かな文字を読むのが苦痛になりました。
特に文庫本はお手上げです。老眼になるとこんなにも、読むのが面倒くさくなるとは思ってもいませんでした。
外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術【電子書籍】[ 山口 周 ]
|
5,000冊の本を整理して見た。
5,000冊を整理したら、部屋が明るくなった。
ロッド越しに、本棚を眺め、こんなに読む本のジャンルが違って来たことで、
人生って分からないものなんだと、感慨に耽ると同時に、
もう昔の本は、整理しても良いんじゃないかと、思い始めたのです。
丁度その頃、妻から本は邪魔だから、早く整理するようにと言われたのを、きっかけに、整理を始めたのです。
それまでも本は、引っ越しなどで2~3回整理したのですが、
今回は、本は6分の1に減らそうと思い、将来、自分が読みたいと思う本だけ残すようにしました。
読書習慣が学力を決める (致知ブックレット) [ 川島隆太 ]
|
本の整理をやって見てたら、どうしてもっと早く、やらなかったんだろうと思ったのです。
確かに本棚には自分の価値観、人生観が詰まっていますが、人は変わるものです。
以前の自分を追いかけなくて良いんだ、今の自分が、大事なんじゃないかと思ったのです。
5,000冊の本を整理し、部屋は久しぶりに、広さを取り戻しました。
確かに、本の背表紙を見ているのは良いもので、こんな本も買ったんだと思い出しますが、内容まではなかなか思い出せません。
池上彰特別授業君たちはどう生きるか 読書の学校 (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著) [ 池上彰 ]
|
ヘルマン・ヘッセ、スタンダール。
思い出の書籍。
しかし、10代の頃に読んだ本は、たった1度しか読んでいないのに、今でも、強烈に覚えています。
例えば、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』、スタンダールの『赤と黒』、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』など、
読後何十年も経つのに、
『赤と黒』なら、野心家の主人公ジュリアン・ソレルが、貴婦人や令嬢を踏み台にして、のし上がる姿を思い出します。
本は自分を、知らない世界に誘ってくれますが、その本を手元に置かなくても、読んだ記憶は人生を豊かにしてくれます。
本は本棚に、入れっぱなしにするぐらいなら、記憶の世界で、時折、思い出すほうが、余程良いのではないか、
自分は集める事だけに夢中になり、本質を勘違いをしていたんじゃないかと思ったのでした。
|