太宰治『葉桜と魔笛』美しい文章の冒頭・あらすじ・名言




太宰治『葉桜と魔笛』美しい文章の冒頭・あらすじ・名言

美しい文章は読んでいて気持ちいいものです。

本を選んで買う時にいつも思うんですが、そんな文章の小説に出会いた時には、チョット得した気にさせて呉れます。

そしてそんは本を手元に置いてページをめくる事は、とても贅沢に思えます。

太宰治の小説には、そんな言葉が散りばめられていて、きっと心に残る筈です。そんな一冊のページを開いて見ましょう。

太宰治『葉桜と魔笛』の冒頭


桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。 



これは、太宰治の『葉桜と魔笛』の冒頭部分です。

そして、その続きはこのように記されています。


「と、その老夫人は物語る。――いまから三十五年まえ、父はその頃まだ存命中でございまして、私の一家、と言いましても、母はその七年まえ私が十三のときに、もう他界なされて、あとは、父と、私と妹と三人きりの家庭でございましたが、父は、私十八、妹十六のときに島根県の日本海に沿った人口二万余りの或るお城下まちに、中学校長として赴任して来て、恰好かっこうの借家もなかったので、町はずれの、もうすぐ山に近いところに一つ離れてぽつんと建って在るお寺の、離れ座敷、二部屋拝借して、そこに、ずっと、六年目に松江の中学校に転任になるまで、住んでいました。」


三十五年前を振り返った「私」が、回想を始めます。

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太宰治『葉桜と魔笛』あらすじ


「私」が結婚したのは二十四歳の時でした。当時としては遅い結婚でしたが、それには理由がありました。

亡くなった母親の代わりに、父親や病気の妹を支えていたからです。

大変に美しい妹でしたが、その妹も「私」が二十、妹が十八のときに亡くなりました。

妹は腎臓結核で、医者からは余命百日と宣告されていたのです。

それなのに妹は、冗談を言ったり、「私」に甘えたりします。そんな妹を見ている「私」は、辛くて気が狂いそうになります。

五月の半ばのことです。

「私」がうなだれて野道を歩いていると、どおん、どおん、といった恐しい物音が響いて来ました。

日本海軍とバルチック艦隊の、大激戦の最中だったのです。

「私」は、その音の恐怖やら、妹のことやらで、長いこと草原で泣き続けていました。

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妹に届いた手紙。


夕方家に帰ると、妹が「私」に、「この手紙、いつ来たの?」と訊ねてきます。

そして「知らない人からなのよ。」と、告げてきました。妹が知らない人と言ったのはM・Tというイニシャルの男性です。

「私」はこの言葉に憤いきどおります。

なぜなら、その五、六日前、「私」は、妹の箪笥の奥に隠されていたM・Tからの三十通ほどの手紙を発見していたからでした。

「私」は、悪いことと知りつつも、その手紙を読んでしまったのです。

一通ずつ日付に従って読み進めていくにつれ、「私」の心は浮き立っていきました。

何やら自分自身にも、世界が開けてくるような気がしたのです。

ところが、最後の一通を読み終えた「私」は、その手紙を一通残らず焼いてしまいました。

そして、妹の恋愛は、心だけのものではなかったのです。

しかも、妹の病気を知ったM・Tは「お互い忘れてしまいましょう。」などと、

残酷なことを平気で書き、それっきり一通の手紙も寄こさないという有り様でした。

妹は、差出人を知らないと言う手紙を「読んでごらんなさい。」と「私」に渡します。

「私」の指先は当惑するほど震えていました。

なぜならその手紙は、M・Tを装って「私」が書いたものだったからです。

その手紙の内容は、妹を励ますものでした。

別れを告げたことを心から後悔し、これからは毎日歌を作って送ると書きました。

それから毎日晩の六時に、庭の塀の外から口笛で軍艦マーチを吹いてあげると書き、歌を一句添えました。

「待ち待ちて ことし咲きけり 桃の花 白と聞きつつ 花は紅なり」

けれども妹は、この嘘をすぐに見抜き「ありがとう。これ姉さんが書いたのね。」と、言いました。

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「私」は酷く狼狽します。

妹の苦しみを見かねた「私」は、

これから毎日M・Tを装って手紙を書き、こっそりと塀の外で口笛を吹こうと思っていたからです。

妹がなぜ姉の「私」の嘘を見抜いたかと言うと、それは、M・Tからの手紙は全て、妹の自作自演だったのです。

そして妹は、胸の内を打ち明けました。

「あたしは今まで一度も、恋人どころか、男のかたと話したこともなかった。もっと大胆に遊べばよかった。あたしのからだを、しっかり抱いてもらいたかった…。」

「私」は、不憫な妹をそっと抱きしめてあげました。目には涙がこみ上げてきます。

その時、庭の葉桜の向こうから、軍艦マーチの口笛が聞こえてきたのです。時計を見ると六時でした。

「私」と妹は、言い知れぬ恐怖に強く抱き合います。

そして「私」は思います。

神さまは、在る。きっと、いる。と。

この三日後に妹は亡くなりました。

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