誰にでも、思い出の味がある。
誰にでも思い出の味があると思います。
子供の頃に、母が作って呉れた餃子の味、学生時代に通った定食屋の生姜焼きの味、部活帰りに食べていた肉屋のコロッケの味。
入社したての頃、契約が取れない中で、よく通った喫茶店の厚焼きトーストの味、残業でよく食べた、出前の炒飯の味。
仕事帰りに通った、焼き鳥屋でビールのおつまみに食べた、もつ煮込みの味など、味覚は記憶に残っています。
懐かしい、思い出の味を探す。
浅草「駒形どぜう」の味。
私の中で特に、思い出の味として残っているのが、
若い頃に、上司に連れて行ってもらった浅草の「駒形どぜう」の、どじょう鍋の味です。
七輪に平たい鉄鍋に、きれいに並べられてどじょうが乗っていて、その上に薬味として、まず、大量の刻み葱を乗せます。
そこへ、山椒をたっぷりとふりかけ、ぐつぐつとなって来た所で、
熱々を口へ頬張ると、何とも言えぬ癖になる味が、口の中に広がります。
なかなか食べに行けませんでしたが、数十年後に行って見ると、やはり、癖になる味が、口いっぱいに広がりました。
思い出の料理人。
ところで、今はもうなくなってしまったり、二度と食べられないと思っていた、懐かしい味を、再現してくれる料理人がいました。
NHKドキュメンタリー「目撃!にっぽん」
「思い出料理人よみがえるあの日」
2019年4月14日にNHKのドキュメンタリー「目撃!にっぽん」で放映された、
「思い出料理人よみがえるあの日」で登場した、料理人の宗河美幸さんです。
宗河美幸さんは以前、イタリアンレストランを、ご自分で経営されていたようですが、
多忙で体調を崩した事で、お店を閉店したそうです。
その後、友人から思い出の料理の再現を頼まれ、再現した料理を食べたてくれたその友人が、
涙を流して、感激してくれた事をきっかけにして、思い出の料理人になったようです。
家族の思い出の料理を求めて。
亡き祖母の思い出の味を再現。
番組ではある男性から、亡き祖母が作ってくれた、お餅の再現を頼まれた宗河さんが、時間と手間を惜しまず、
亡き祖母の思い出の場所まで訪れ、当時の方などに取材をして、思い出の料理を再現をする迄の過程が、描かれていました。
そこには、依頼者のために、妥協を許さない姿が、映し出されていました。
きっと中途半端な、味の再現ではご自分が納得せず、
依頼者が感激してくれる、思い出の味の再現には、妥協はあってはならないという、気概が伝わって来ました。
料理の味は、その時にタイムスリップする
思い出の味とは、家族と過ごした時間でしょうか。
料理の味、料理の思い出で、依頼人が見つけたいものは、その時の、家族と過ごした時間なのでしょう。
それは、大切な人から教えてもらった料理でしょうし、かけがいの無い仲間たちと、過ごした日々なのかもしれません。
確かに、音楽なども、若い頃、夢中で聴いていたものが、時間が経って聴いた時に、一瞬にしてその時代に引き戻してくれます。
味覚も、長く記憶の中に保存されていて、どんなに時間が経っても、味わいたいと思うのでしょう。
思い出の料理人のお値段は。
ところで、思い出の料理人に、料理の再現をお願いした時の、お値段が気になりますよね。
調べてみたら、材料費、出張費などは、事前にお支払いするようで、トータルで、おおよそ8~10万円程度になるようです。
何年も、頭の中から離れなかった味を、再現してくれる事を考えれば、高いと思うか、安いと思うかですかね。
向田邦子の『父の詫び状』昔カレー
向田邦子の『父の詫び状』の「昔カレー」の思い出。
思い出の料理で思い浮かぶのは、作家でドラマの脚本家だった、向田邦子の『父の詫び状』の中の「昔カレー」です。
昔食べたカレーライスを取り上げた作品で、
カレーライスを食べた時に、たまに、読み返して見たくなる作品ではないでしょうか。
そこにはこんな箇所がありました。
「いままでに随分いろいろなカレーを食べた。目黒の油面小学校の横にあったパン屋で、母にかくれて食べたカレーパン、出版社に就職して……」
そして一番の思い出が、母が作ってくれたカレーになるのでした。
その味は、向田さんにしか分からない味でしょうが、
皆がみんな、それぞれの思い出の味があって、それぞれの人生で、大切な味、時間、思い出として残っているんですね。