相棒Season16第5話手巾(ハンケチ)と芥川龍之介文学の美学




相棒Season16第5話「手巾(ハンケチ)」に隠された美学

相棒Season16第5話「手巾(ハンケチ)」には、芥川龍之介の「手巾(ハンケチ)」の話が右京さんの口から出て来ます。

右京さんと冠城亘(反町隆史さん)は、警察学校で教官を務める、元鑑識職員の米沢守(六角精児さん)から連絡を受け、

校内で起きた“転落事故”の現場に臨場します。



相棒Season16第5話「手巾(ハンケチ)」


意識不明の重体で病院に運ばれたのは、樋口(佐戸井けん太さん)と言うベテラン教官でした。

この教官は、冠城亘も指導を受けた人物で、厳しい教官として知られていました。

独自の捜査を始めた右京さんと冠城亘は、樋口の入院先で、彼の娘・真紀(南沢奈央さん)と顔を合わせます。

真紀は所轄の刑事で、現在は電機メーカーの機密データを盗んだ後、死亡した男の事件を追っていました。

そんな矢先に父親が転落事故に遭ってしまったのです。

父親の意識も戻らない状態にも関わらず、

真紀は膠着状態になっている、その事件の手掛かりを見つけたと言って、病院に父親を残して、捜査に戻ってしまうのです。

冷淡すぎる真紀の態度に疑念を抱く冠城亘。

一方、右京さんは、教官転落とデータ漏洩、2つの事件に関連があるのではないかと、推理を始めます。

父親が意識もない状況でありながら、冷静に右京さんと冠城亘に対応する真紀でしたが、

冷静さとは裏腹に、彼女は握っていたハンカチを、両手で引きちぎれんばかりに強く握り絞めていたのを、

右京さんは見逃しませんでした。

そしてその様子を文豪・芥川龍之介の「手巾(ハンケチ)」と言う短編小説に似ていると解説をしたのでした。

いつもながら博学の持ち主だと、舌を巻くばかりです。

事件は捜査を進めると、かつて刑事だった樋口が23年前に関わった事件との奇妙な符合が発覚して来たのでした。

芥川龍之介の短編小説「手巾」


1916年10月発表の、芥川龍之介の短編小説「手巾(ハンケチ)」、

この物語の主人公である長谷川謹造は、『武士道』を記した、新渡戸稲造がモデルであるとされています。

東京帝国大学教授でアメリカ人の妻を持つ長谷川謹造は、

窓際でストリンドベリの作劇の本を読みながら、庭の岐阜提灯を度々眺めつつ、日本古来の武士道に想いを馳せていました。

そこへ、ある婦人が長谷川の元を訪れ、

先生のお世話になった「西山憲一郎の母」と名乗り、息子が闘病もむなしく、腹膜炎のために亡くなったことを報告します。

息子の死を語っているにも関わらず、柔和な微笑みを絶やさない婦人でした。

ところが、先生が団扇(うちわ)をテーブルの下に落として拾おうとするときに、偶然婦人の膝を見ます。

その夫人は、膝の上の手巾(ハンケチ)を両手で引き裂かんばかりに握っていたのです。

婦人は、顔でこそ笑っていたが、実はさっきから全身で泣いていたのです。

表情は穏やかそうに見えても、心の中では深く傷つき、悲しみに打ちひしがれていたのです。

芥川龍之介が『手巾(ハンケチ)』に託した想いとは、どういうものだったのでしょう。

それは、感情を隠す日本人の美学だったのか。

それとも、武士道のような、日本独特の精神的な基盤を表しているのなのか、

どちらとも読めるのがこの短編の味わいでした。