村上春樹さん『海辺のカフカ』あらすじ・タイトル由来と名言




村上春樹『海辺のカフカ』あらすじ・タイトル由来と名言

『海辺のカフカ』は、村上春樹さんが23歳の時に発表した10作目の長編小説です。

この作品は、ギリシア悲劇のエディプス王の物語や、『源氏物語』や『雨月物語』などの日本の古典小説などがベースとなっていると言われています。

2002年9月12日に新潮社から刊行され、2005年3月に同社で文庫化されました。

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村上春樹さん『海辺のカフカ』



『海辺のカフカ』は15歳の少年「田辺カフカ」が主人公です。

東京都中野区在住で、父親は著名な彫刻家。田村は本名ですが、

カフカは、はぐれたカラスが強く生きると言う意味で、自分自身で付けた名前でした。

カフカはチェコ語でカラスを意味します。

彼にはもう一人「カラスと呼ばれる少年」がいます。

この少年は、カフカが作り出した分身で、信頼のおける守護者で、『海辺のカフカ』の冒頭にも出て来ます。

「カラスと呼ばれる少年」は、カフカくんが、世界でいちばんタフな15歳になろうと決意し、思い悩む時に登場します。

田辺カフカくんが、家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけではなく、

古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真などでした。

そして15歳の誕生日は、家出をするには、一番ふさわしい時のように思えたからでした。

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カラスと呼ばれる少年」の名言


それについては、「カラスと呼ばれる少年」がこんな言葉で語っています。


「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年にならなくちゃいけないんだ。なにがあろうとさ。そうする以外に君がこの世界を生きのびていく道はないんだからね。そしてそのためには、ほんとうにタフであるというのがどういうことなのか、君は自分で理解しなくちゃならない。」


15歳のカフカくん。

田辺カフカくんが家出をし、夜行バスで四国に向かう途中で、若い美容師のさくらと知りあいます。

そして彼女が、離れ離れになった姉ではないかと思うようになります。

辿り着いた高松で、由緒ある私設の甲村図書館で時間をつぶすうちに、許されて、そこで寝泊まりする部屋を与えられます。

その部屋に飾ってある絵と、50代の美しい館長の佐伯さんが19歳の時に作った「海辺のカフカ」の音楽の中に、

カフカくんは時空間を超えて現れた15歳の少女に恋しながら、少女の霊が乗り移った佐伯さんと性的に結ばれてしまうのでした。

そしてカフカくんは、佐伯さんが本当の母親ではないかと思うのでした。

死んだ恋人の思い出に生きる佐伯さんはカフカくんと出会い、

カフカくんのなかに恋人を感じたことで、全ての記憶を捨て去り、死のときを受け入れて命を絶つのでした。

甲村図書館で田辺カフカくんが読んでいた本は、

バートン版の『千夜一夜物語』フランツ・カフカの『流刑地にて』、『漱石全集』、その中の『虞美人草』、『坑夫』でした。

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知的障害を持ったナカタさん


もう一人の登場人物は、戦争や暴力などで深い傷を負い、

疎開先の国民小学校の頃の事故ですべての記憶を失くした、同じく中野区在住の老人のナカタさんです。

知的障害を持った老人ナカタさんは、猫と会話出来き、生活保護を受けながら、

迷子になった猫探しを頼まれて過ごしていました。

そんなある日、猫殺しのジョニー・ウォーカーの残酷な行為に耐えかねて、彼を殺してしまい、

ナカタさんも元の自分に戻るために「入り口の石」を求めて四国へ向かいます。

そして導かれるように甲村図書館に辿り着き、そこで館長の佐伯さんから、

彼女が書き残してきた3冊の記憶のノートを燃やして欲しいと頼まれるのでした。

こうして、2つの物語がパラレルに進行し、途中から融合して行きます。

全く別の道を歩んできた「カフカくん」と「ナカタさん」の2人が、不思議な繋がりで交差して行くのです。

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山梨の国民学校での出来事。


「ナカタさん」の伏線として、1944年11月7日。

終戦まじかの疎開先、山梨の国民学校で女性教師が16人の生徒たちを引率して、お椀山にキノコ採りに行きます。

ところが登山道から森に入って小さな広場のような場所に出たときに、バタバタと生徒たちが倒れてしまいます。

その直前に、光る飛行機らしいものを見たと言う。その直後、子供たちは意識を失ってしまいます。

毒キノコによる食中毒や、神経ガスの散布などの可能性が考えられましたが、

いずれも究明されず、原因は不明のまま迷宮入りとなり、

まるで集団催眠のように、2時間分だけの記憶が欠落するという事件が起きます。

しかし、そこでただ一人、ナカタ サトル少年だけが3週間、意識が戻らなかったのでした。

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ギリシャ神話『エディプス王』


そして、田辺カフカくんが何故、家出をした真相が語られます。

それは、父親から掛けられた、

「お前はいつか自分の手で父親を殺し、母と姉と交わるだろう」という呪いの言葉から脱出するためだったのです。

父親から投げ掛けられたその言葉には由来がありました。

由来は『エディプス王』で、それは、ギリシャ神話を題材として、ギリシャ三大悲劇詩人の1人であるソフォクレスが書いた戯曲です。

ギリシャ悲劇の最高傑作という評価を受けていおり、劇作品の手本とみなされています。

テーバイの王オイディプスは、国に災いをもたらした殺害犯を追いますが、

それが実は自分であり、しかも産みの母と交わって子どもを産んでいたことを知り、

自ら目を潰し、王の座を退位するまでが描かれています。

これが「エディプス・コンプレックス」の語源となったと言われている物語です。

カフカくんが幼い頃、母親が養子の姉を連れて家を出て行き、母親から捨てられたことが、長く心の傷となっていました。

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『海辺のカフカ』のタイトルの由来。


佐伯さんは19歳の時に詩を書いた。それにメロディーをつけ、ピアノで弾いて歌った。

メロディーはメランコリックで無垢で、美しいものだった。

それをレコーディングするとそのレコードは発売され、劇的にヒットしたのです。

その曲のタイトルは『海辺のカフカ』でした。

そして佐伯さんは、カフカくんには生きていって欲しいと言い、1枚の絵を託します。

その絵のタイトルも「海辺のカフカ」でした。

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ベートーヴェンの「大公トリオ」


『海辺のカフカ』クライマックスでは、ベートーヴェンの「大公トリオ」が登場します。

正式名称を『ピアノ三重奏曲第7番変ロ長調Op.97』と言うこの曲は、ピアノ三重奏曲の頂点と評されるほどの傑作です。

ベートーヴェンは、この曲をオーストリアのルドルフ大公に献呈しました。

ルドルフ大公は、当時の皇帝であったレオポルド2世の息子です。

彼は音楽の才能に恵まれており、16歳のときからベートーヴェンの弟子としてピアノと音楽理論を学んでいました。

そんな2人のエピソードから、「大公トリオ」と呼ばれるようになったのです。

ベートーヴェンとルドルフ大公の関係は、『海辺のカフカ』のナカタさんとホシノの関係に似ています。

ナカタさんは、少年期の事件により障害を背負い、字も読めなくなってしまいます。

そんなナカタさんと知り合いとなり、彼を援助したのが、元自衛官で、長距離トラック運転手のホシノと言う人物です。

まるでルドルフ大公がベートーヴェンを援助した関係と同じように、

ホシノがナカタさんに協力することによって、物語が展開していくのです。

星野さんはナカタさんに、不良時代の自分を可愛がってくれた死んだ爺ちゃんを思い親しみを感じます。

そして「大公トリオ」を気に入り、その曲に魅かれて行くのでした。

ナカタさんの目的である<入り口の石>を探し、カーネル・サンダースに扮した霊魂に案内され見つけ出すことが出来たのです。

そして「海辺のカフカ」の絵は、終盤でカフカくんに渡され、彼はそれを持って中野の自宅に帰るのでした。

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