サリンジャーはお好きですか? 20世紀を代表するアメリカの作家で代表作『ライ麦でつかまえて』は、
多くの若者たちの心を捉え、世界中で支持されて来ました。
そんなサリンジャーと、出版エージェンシーの編集アシスタントの交流を、映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』は描いています。
『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』
1995年 秋 、作家を夢見るジョアンナは、
マサチューセッツ州、ボストン市のバークリーに恋人を残したまま、ニューヨークにやって来て、
老舗出版エージェンシーでJ.D.サリンジャー(1919年~2010年)担当の女上司マーガレットの、編集アシスタントとして働き始めます。
サリンジャーと言えば、一般的に、「孤高の天才」、「偏屈」、「人嫌い」などのイメージを持たれる作家で、これまでに様々な評伝があります。
サリンジャーとの出会い。
そんなサリンジャーの対応は、上司のマーガレットが独占して遣っていました。
エージェンシーのオフィスには、J.D.サリンジャー、Aクリスティー、Dトーマス、フィッツジェラルド等の、ポートレートが飾られた、豪華でおしゃれな職場でした。
昼はニューヨークの中心地マンハッタンで仕事をし、夜はブルックリンの流し台のないアパートで、作家志望のドンと暮らし始めます。
彼女の仕事は日々、世界中から大量に届く、サリンジャーへの熱烈なファンレターを処理すること。
ファンからのメッセージは、1963年からサリンジャーの希望により、彼の元に届く事はありませんでした。
ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス) [ ジェローム・デーヴィド・サリンジャー ]
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《ジョン・レノン事件》
更に、1980年にジョン・レノンが暗殺された事件で、犯人のマーク・チャップマンは犯行後、
警察官が現場に到着するまで「ライ麦畑でつかまえて」を読んでいて、法廷でも作中の一文を大声で読み上げたのでした。
この事件以降、エージェンシーではファンレターの扱いに、更に慎重になっていました。
自立に目覚める。
しかし、熱烈なファンからの心揺さぶられる手紙を読むに付け、
味気ない定型文を返信する事に疑問を感じ、いてもたまらず個人的に手紙を返し始めます。
しかし、ジョアンナはこの時点でも、サリンジャーの作品は一冊も読んでいませんでした。
そんなある日、ジョアンナが電話を受けた相手は、あのサリンジャー…。
「私はジェリーだ!」…「良かった君と話せて、良い一日を!」
その後、ジョアンナは度々サリンジャーと電話で接する中で、自分自身を見つめ直すことになります。
そんな折、サリンジャーは30年振りに作品を世に出すと言って来ました。これは、ジャーナリストに知られることなく、極秘で遣らなければならないミッションでした。
ジョアンナが多忙な仕事の合間に考える事は、友人や恋人との関係、夢にかける情熱、そして自分の将来についてでした。
そしてその結論は、本を編集する仕事を通じて、表現者になりたいと言う強い思いに至ったのです。
そして、その夢を実現する場所は、ニューヨークと決めていたのです。
それを後押ししたのが、たまに掛かって来る、電話越しのサリンジャーの言葉でした。
「書いているかい? 例え、朝の15分でも書くことをしなさい」
そして、ジョアンナは老舗出版エージェンシーを辞めて、自身の詩集を書き始めました。
ライ麦畑でつかまえて (講談社英語文庫) [ ジェローム・デーヴィド・サリンジャー ]
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「サリンジャーと過ごした日々」
映画「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」の原作は、本が出版さる現場で日々の出来事をを印象的に綴った、
ジョアンナ・ラコフの自叙伝「サリンジャーと過ごした日々」(井上里 訳/柏書房)です。
ラコフの自叙伝「サリンジャーと過ごした日々」では、サリンジャーの気難しい側面はなく、
気取ることない、作家志望の著者の夢を後押ししてくれる人物として、好意的に描かれています。
【中古】サリンジャーと過ごした日々 /柏書房/ジョアンナ・ラコフ(単行本)
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『ライ麦畑でつかまえて』
それは思春期特有の繊細な感情と、大人の世界への反発を描いた物語です。
『ライ麦畑でつかまえて』の主人公であり、語り手であるホールデン・コールフィールドは、ニューヨーク生まれの16歳で、年齢以上に成熟した少年でした。
全寮制の名門校を退学処分になり、その後の3日間をニューヨークで過ごします。
偽善に満ちた大人社会に嫌気が差し、孤独な放浪の旅に出るホールデン。しかし、その心の奥底には、子供たちの無垢な心を守りたいという強い思いがありました。
街をさまよう中で、ホールデンは数々の出会いを通じて、少しずつ自身の内面と向き合っていきます。
妹のフィービーとの再会を経て、ホールデンは最終的に、世界との和解へと向かっていくのです。
その心情は「序章」に鮮明に描かれています。
フラニーとズーイ (新潮文庫 新潮文庫) [ J・D・サリンジャー ]
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『ライ麦でつかまえて』の序章
序章
とにかくね、いつも思うんだ。広いライ麦畑で、子どもたちが何かのゲームをして遊んでる姿を。何千もの子どもたちがいて、周りには大人が誰一人いないんだ。大人っていうか、僕以外には誰もね。そして僕は、なんかすごい崖の端に立っているんだよ。僕がしなきゃいけないことは、もし子どもたちが崖から落ちそうになったら、つまり走っていてどこ見てるか気をつけてないときに、どこからともなく飛び出して、彼らを捕まえること。それだけを一日中やるんだ。僕はただライ麦畑のキャッチャーになるわけ。変だってコトは分かってるけど、本当にやりたいことはそれだけなんだ。おかしなコトだってコトは分かっているよ。
ナイン・ストーリーズ (新潮文庫) [ J・D・サリンジャー ]
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