村上春樹『1Q84』意味・冒頭・あらすじと、ジョージ・オーウェル『1984』の関係性




村上春樹『1Q84』意味・冒頭・あらすじと、ジョージ・オーウェル『1984』関係性。

『1Q84』は、村上春樹さんの12作目の長編小説で、2009年5月~2010年4月に掛けて出版され、

文庫化になったのは、2012年4月~6月に掛けて、BOOK1、BOOK2、BOOK3がそれぞれ前編と後編とに分けられ、

全6冊として新潮文庫より出版されました。



ジョージ・オーウェル『1984』が土台

そのタイトルからも分かるように、

ジョージ・オーウェルが『1984』(1949年出版)を意識したもので、オーウェルが近未来を描いたのに対し、

村上春樹さんは『1Q84』(2009年出版)で近過去を描いています。

村上春樹さんは兼ねてより、ジョージ・オーウェルの『1984』を土台にした、

近過去の小説を書きたいと言う意向があったようで、それを実現したようです。

ここでポイントになっているのが、「1984年(昭和59年)」という時代設定です。

村上春樹さんはこの年は、世界を揺るがせた地下鉄サリン事件や、9.11事件などに影響を受け、

特定の主義による「精神的な囲い込み」を脅威とし、その脅威に対抗するものを物語で表現したかったそうです。

『1Q84』では、独立した二つの物語が、交互に同時進行の形で展開していきます。

この手法は『海辺のカフカ』や『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で知られている構成です。

1Q84 BOOK1〈4月ー6月〉前編 (新潮文庫 新潮文庫) [ 村上 春樹 ]

 

1Q84 BOOK1〈4月ー6月〉後編 (新潮文庫 新潮文庫) [ 村上 春樹 ]



村上春樹の『1Q84』あらすじ・冒頭


物語は《青豆》と《天吾》の物語が交互に描き出されています。その冒頭は


第1章 青豆 見かけにだまされないように

タクシーのラジオは、FM放送のクラッシック音楽番組を流していた。曲はヤナーチェクの『シンフォニエッタ』。渋滞に巻き込まれたタクシーの中で聴くのにはうってつけの音楽とは言えないはずだ。


1984年4月、青豆の乗るタクシーが首都高速の渋滞に巻き込まれると、

ラジオから流れて来たのがヤナーチェクの『シンフォニエッタ』で、それを聴くと不思議な身体のねじれの感覚になります。

急いでいた青豆はタクシーを降りて、非常階段から一般道に脱出し仕事に向かいます。

スポーツインストラクターの青豆の仕事とは、

老婦人・緒方の考えに共鳴して、女性をDVで苦しめる男たちを暗殺する仕事でした。

彼女は人間の身体の微妙な部分を捉える優れた能力を持っていて、

首の後ろのあるポイントに細い針を突き刺すことで、心臓発作に酷似した状況で、人間を殺害することが出来たのです。

青豆がそのような殺人行為をするようになった背景には、無二の親友を自死で失った過去が関係していました。

しかし、1984年4月に、その仕事のひとつをやり終えた頃から、

青豆は自分がそれまでの現実とは微妙に異なった世界「1Q84年」に入り込んでいるらしいことに気づくのでした。

青豆は別世界に入り込む、新しい世界を1Q84=〈Q=question mark〉と呼ぶのでした。

1Q84 BOOK2〈7月ー9月〉前編 (新潮文庫 新潮文庫) [ 村上 春樹 ]


「1Q84年」の由来。

タイトルの「1Q84年」を青豆が語っている場面が登場します。

それは新潮文庫BOOK1全編、第9章259ぺージにこんな場面が出てきます。


1Q84年ー私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう、青豆はそう決めた。

Qはquestion markのQだ。疑問を背負ったもの。彼女は歩きながら一人で肯いた。

好もうが好むまいが、私は今この「1Q84年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。今は1Q84年だ。


1Q84 BOOK2〈7月ー9月〉後編 (新潮文庫 新潮文庫) [ 村上 春樹 ]


《天吾の世界》


一方、予備校の講師として数学を教えている天吾は、小説家を目指して新人賞のために小説を書き続けています。

応募する中で知り合った編集者の小松と親しくなり、

小松から無署名のコラム書きや、新人賞応募作の下読みなどの仕事を貰っていました。

天吾は新人賞応募作の中から、「ふかえり」という少女の書いた『空気さなぎ』と言う小説を見い出し、小松に強く推薦します。

小松は天吾に『空気さなぎ』のリライトを勧め、天吾はそれを完成させます。

『空気さなぎ』は新人賞を得て爆発的に売れますが、いつしか天吾は周囲の現実の世界が、それまでとは微妙に異なって、

天に月が2つ浮かぶ『空気さなぎ』の虚構の世界そっくりに変貌している事を知るのでした。

かくして個別に「1Q84年の世界」に入り込んだ2人は、

それぞれが同じ「さきがけ」と言う宗教団体に関わる事件に巻き込まれていくのでした。

1Q84 BOOK3〈10月ー12月〉前編 (新潮文庫 新潮文庫) [ 村上 春樹 ]



BOOK1、BOOK2、BOOK3の構成


BOOK1、BOOK2では、スポーツインストラクターであると同時に暗殺者としての裏の顔を持つ青豆を描いた「青豆の物語」と、

予備校教師で小説家を志す天吾を主人公とした「天吾の物語」が交互に描かれています。

BOOK3では2つの物語に加え、青豆と天吾を調査・探索する牛河を主人公とした「牛河の物語」が加わります。

ふたつの物語の大きな背景となっているのは、<さきがけ>と呼ばれる宗教団体(カルト教団)です。

「さきがけ」は、1970年代の学園紛争が生み出したコミューンの発展的な団体で、

青豆と天吾はそれぞれに「さきがけ」との関わりを持ち、

「リトル・ピープル」と呼ばれる謎の存在と対峙していくことになります。

そして物語の展開の中で、2人の主人公、青豆と天吾の出会いが分かって来ます。

孤独な10歳の少年少女として、

誰もいない放課後の小学校の教室で、黙って手を握り目を見つめ合うが、そのまま別れ別れになっていた事が明かされます。

そして互いに思いながら、互いの消息を知ることなく長年月が過ぎた1984年4月、

2人は個別にそれまでの世界と微妙に異なる、1Q84年の世界に入り込んでいたのです。

さまざまな出来事、試練に遭遇したのち、

12月になって20年ぶりの再会を果たし、1984年の世界に戻ったところで物語は終わります。

1Q84 BOOK3〈10月ー12月〉後編 (新潮文庫 新潮文庫) [ 村上 春樹 ]


ジョージ・オーウェル『1984』


題名の由来となった、ジョージ・オーウェルの『1984』は、こんな物語です。

ジョージ・オーウェルの『1984』はイギリスの作家、ジョージ・オーウェルによって1949年に刊行されたディストピアSF小説で、

1949年の時点から想像した、全体主義国家によって、監視社会化した、近未来世界の恐怖を予想して描かれています。

この作品は「史上最高の文学100」に選出されるなど、欧米での評価が特に高い作品で、

出版から75年経った今もなお、世界の文学・思想・音楽を始めとした、様々な分野に影響を与え続けています。

舞台は1950年代に核戦争を経た1984年。

世界は3つの超大国、オセアニア、ユーラシア、イースタシアによって分割統治されており、

この3国は暗黙のルールのもと、物資を浪費するための戦争を繰り返していました。

どの国においても市民に自由はありません。

思想・言語・恋愛などあらゆる権利に統制が敷かれ、戦争により物資は常に不足し、

プロパガンダを流し続ける、消すことができない双方向テレビ「テレスクリーン」によって、

行動の全てが監視されている世界なのです。

そんな社会の中で、”ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来で、

ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事でした。

彼は、完璧な屈従を強いる体制に、以前より不満を抱いていました。

そんなある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、

彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるのですが…

1984 (角川文庫) [ ジョージ・オーウェル ]