ブレイディみかこさんの、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』が、沸騰しています。
この本は、ブレイディみかこさんの息子さんが、イギリスの中学に進学することで、
彼がイギリスの教育制度や、階級社会、格差社会の矛盾や戸惑いを感じながら、中学校生活を過ごす姿を描いています。
その内容や、著書の感想から、イギリス階級社会を考察して行きます。
著者はイギリスのブライトンに居住。
保育士兼ライターの、ブレイディみかこさん。
そこには、日本では、なかなかお目に掛かれない、イギリス階級社会の問題が、根底にあるようです。
イギリスには、どんな階級社会があるかを知ることで、改めて、日本の良さを再認識させられる作品になっています。
著者、ブレイディみかこさんは、1965年(昭和40年)福岡生まれで、
高校卒業後、アルバイトと渡英を繰り返し、1996年(平成8年)から、イギリスの南端のブライトンに在住し、
ロンドンの日系企業で数年勤務した後、イギリスで保育士の資格を取得して、働きながらライター活動をしています。
2019年に『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を刊行すると、たちまち話題の本となりました。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2 [ ブレイディ みかこ ]
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ブレイディみかこさんの本の内容や感想。
アイルランド人の夫と、一人息子。
ブレイディみかこさんのご家族は、アイルランド人の夫と、息子さんが一人います。
配偶者の夫は、ロンドンの金融街シティにある、銀行に勤めていましたが、
数年後にリストラに遭うと、子供の頃から、やりたいと思っていた、大型ダンプの運転手に転職したのです。
主人公の息子さんは、日本人の母と、アイルランド人の父の間に生まれたことで、
自分のアイデンティティが、日本なのか、それとも、イギリスなのかに悩みながら、思春期を迎えていたのです。
ブレイディみかこさんのお宅は、
荒れている地域と呼ばれている、近所の学校ランキングでも、底辺あたりを彷徨っている、元公営住宅地に住んでいます。
息子さんは小学生の時は、カトリック系の公立校に通っていていました。
その小学校は、市のランキングで、1位のミドルクラスの学校だったのです。
そこは、優秀な子供たちも多く、家庭環境もそれなりの生活レベルだったのです。
地元の「元底辺中学校」への進学。
しかし、息子さんは、あれこれ迷った後、地元の「元底辺中学校」への進学を決めたのでした。
それには、小学校の友達がその中学校に進学したことが、大きな要因でした。
息子さんが入学した中学校は、緑に囲まれ、ピーターラビットが出て来そうな、上品なミドルクラスの学校ではなく、
殺伐とした、英国社会を反映する、リアルな学校だったのです。
いじめも、レイシズムも、喧嘩もあるし、こわもてのお兄ちゃんや、ケバイ化粧のお姉ちゃんが、いるような学校だったのです。
そうした中で、息子さんは、入学した中学校で、早くも、人種差別的な発言に、悩むことになるのでした。
イギリスでは外国出身者が、人口の14%を占めるのに対して、日本では2%なようで、
より外国人居住者に対する差別感覚が、身近にあるようなんです。
このような環境は、11歳の少年にとっては大きな変化でした。
彼はこんな環境でどんな成長を遂げるのかを、
その成長を、一番身近で見ている母親の目線から、この作品は、優しく見守っているのです。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー The Real British Secondary School Days/ブレイディみかこ |
イギリス階級社会はどんなもの。
そんな階級社会のあるイギリスでは、暮らし振りはどんな風になっているのでしょう。
イギリスの階級社会は、文化の違いでもあるようです。
これは、イギリスに限ったことでなく、ヨーロッパも概ね、今でもあるようです。
イギリスでは古くから、階級社会が存在していました。
そして、それは時代を経るごとに、少しづつ形態を変えながら、いまだに残っていると言います。
階級社会のトップは王族、貴族。
階級社会は、元々は王族、貴族と言った正式に爵位がある人々をトップに、身分が分かれていたようですが、
それが、今では、社会的地位の高さや、医師や弁護士と言った職業、更には、収入と言った面も考慮されていて、
その境界や意味は、だいぶ曖昧になっているようです。
上流階級。
階級は大まかに3つに分かれています。上流階級、中流階級、労働者階級です。
上流階級は世襲で引き継いでいるようで、ほかの2つの階級とは、明確に分かれているようですが、他は曖昧になっているようです。
上流階級の頂点が、ロイヤルファミリー、そして爵位を持つ貴族階級と、爵位はないがジェントリーと呼ばれる、代々の大地主なのです。
エリザベス女王は大地主。
そう言えば、エリザベス女王はイギリスでの、大地主だと言われていますよね。
王室が所有しているのは、バッキンガム宮殿、ウィンザー城、ケンジントン宮殿、
ロンドン塔、アスコット競馬場の一部などの不動産を所有していて、その総額は約1兆円になるそうです。
その他にも、マン島、チャンネル諸島などに及びます。
そして、エリザベス女王の個人資産は、約440億円に及ぶそうです。
中流階級。
中流階級は、3つに分かれているそうです。
「上層中流」~大企業の経営者層、医師、弁護士、名声を得た個人事業主や、芸術家も入るようです。
「中流」~課長や部長クラスのサラリーマン、キャリアのある公務員、教師、研究者、中堅以上の個人事業主だそうです。
余談になりますが、ドラマ『相棒』の杉下右京だったら、国家公務員Ⅰ種合格のキャリアである事から、この「中流」に入るのでしょうか。
「下層中流」~一般的なサラリーマンや、公務員、小規模な個人事業主だそうです。
ブレイディみかこさんの配偶者は、ロンドンの金融街シティにある、銀行に勤めていましたが、数年後にリストラに遭うと、
子供の頃から、やりたいと思っていた、大型ダンプの運転手に転職しました。
と言うことは、彼は「下層中流」から「労働者階級」へ移ったと、イギリスでは思われるのでしょうか。
労働者階級。
ブルーカラー労働者、店員、ウェイトレスなど。
労働者階級は、工場で働くブルーカラー労働者、店員、ウェイトレス、清掃業などのサービス業の従業員、
事務職でも単純労働者、非正規労働者を指すようです。
イギリスの階級社会で思い出すのは、昔、聞いた話ですが、
昔のイギリスの伝統的なパブでは、1軒のパブの中で、階級によってお酒を飲む場所が、分かれていたそうです。
ブルーカラー用と、ホワイトカラー用の入り口があって、店内は別々に分かれていた話を聞いた時、
何で、人種差別的なことをしているんだと思ったのですが、
それは、お互い、気兼ねなくお酒を飲むために、必要な気遣いだったのでしょうか。
昔のパブは入り口が二つあった。
ブルーカラー用と、ホワイトカラー用。
パブでは、ブルーカラー用をタップ・ルームと呼んでいて、そこでは、祖末なベンチとテーブルが壁にそって並んでいて、
大きな暖炉があって、そこで、持ち込んだ食材を調理して、食べることが出来たようです。
この部屋では、あまりお金のない労働者たちが、お酒を楽しむ場だったようです。
これに対して、ホワイトカラー用は、パブリック・パーラーと呼ばれる部屋で、
タップ・ルームより、立派な家具調度類を置いていて、主に上客用とされていたそうです。
アナキズム・イン・ザ・UK 壊れた英国とパンク保育士奮闘記[本/雑誌] (ele‐king) (単行本・ムック) / ブレイディみかこ/ |
階級社会は、住むところが違う。
上流階級は、田舎に住みたがる。
イギリスの階級社会は、住むところも、大きく違っているようです。
イギリスでは、上流になるほど、田舎に住む傾向があるようです。
イングリッシュ・ジェントルマンは、
田舎に広大な土地と屋敷を持ち、乗馬や狩猟、スポーツ、バードウォッチングなど、自然と親しむ趣味がお好みのようです。
イギリス発祥の釣りと言えば、フライフィッシングですが、イギリスでフライフィッシングをするには、
何年も前から、その釣り場のビートと呼ばれる、釣り区間を予約して、相当の代金を払わないと釣りが出来ないと言います。
それは、そもそも、川に通じる敷地は、個人の所有不動産であり、
その土地の大半を、貴族や地主が所有しているから、許可が必要なのです。
なので、誰もが、楽しめる釣りではなかったのです。本来は、ジェントルマンの遊びから発展したようです。
産業革命で、労働者が都市部に住む。
都市部のスラム化で、富裕層は郊外へ逃げ出した。
労働者階級は、18世紀の産業革命により、田舎から出て来て、都市部に移り住むようになりました。
その事から、都市はスラム化し、劣悪な環境となり、
空気や川は汚染され、そのため、富裕層は郊外へと、逃げ出したとされています。
この結果、田舎は上流階級、郊外に中流階級、
インターシティと呼ばれる都市の中心に労働者階級が住むと言う、住みわけが出来て行ったそうです。
その証として、イギリス人は「カントリーサイド」に憧れを持つと言います。
シャーロックホームズが登場する、18世紀のロンドンを「霧にむせぶロンドン」などと言いますが、
本当は公害の霧だったのかもしれません。
家のタイプでわかる階級社会。
一軒家、2軒繋がり、3軒繋がりのテラスハウス。
家のタイプでも階級社会が反映されているようです。イギリスの家(高層住宅を除く、個人住宅)は、
〈デタッチト〉と、呼ばれる一軒家は、上層中流以上が主に居住し、
〈セミ・デタッチト〉と、呼ばれる2軒繋がった家は、中流用。
〈テラスハウス〉と、呼ばれる3軒以上繋がった長屋は、主に労働者用です。
高層住宅や、公営住宅(カウンシル・ハウス)では、労働者階級が居住しています。
ブレイディみかこさんのお宅は、
荒れている地域と呼ばれている、近所の学校ランキングでも底辺あたりを彷徨っている、元公営住宅地に住んでいます。
と言うことは、労働者階級が多く住んでいる地域に、お住まいになっていると言いたくて、あのように、記載されているのかもしれません。
このように、イギリスの階級社会では、その階級ごとに、住むところ、住む家のタイプに始まり、
通う学校、話す言葉、読む新聞、嗜む趣味まで、違っているようです。
購読する新聞で階級が分かる。
大判の高級紙と、タブロイド判の大衆紙。
例えば、新聞なら高級紙と呼ばれる大判の新聞、Daily Telegraph(上流や上層中流の保守層な方が好んで購読)、
The Times、Financial Times(ビジネス関係者が購読)、The Guardian(学者やリベラル層が購読)は、こんな人たちが購読しています。
労働者階級は、タブロイド紙と呼ばれる大衆紙、例えば、Sun、Mirror、Daily Mailなどを、好んで購読しているようです。
階級社会の中で成長する息子さん。
それは、大人への階段なのかもしれません。
こんなイギリスの階級社会の中で、ブレイディみかこさんの息子さんは、
大人の社会を投影している中学校で、悩みを抱えながら成長を遂げてゆくのです。
イギリスの階級社会を通して、彼は、自分の家庭や、両親の仕事、住んでいる場所、通っている中学校、
過去に通っていた小学校、彼の友達や先生が、どんな形で階級社会と付き合っているのかを感じながら、成長してゆくのでしょう。
それは、大人への階段なのかもしれません。
そんな息子さんの行動や、考えに触れるにつけて、思わず考え込み、また、胸を打たれ、
そして、子供たちのことや、それを取り巻く社会のことを考えながら、
イギリスの階級社会を少し、垣間見たような気になったのです。
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルーあらすじで学ぶ階級社会。」への1件のフィードバック
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