東山魁夷の有名な絵「道」
日本画家の、東山魁夷の有名な絵に「道」と言う絵があります。
両側に緑の草原の中を、一本の白い道が、真っすぐに伸びて、ちょっと丘を超えるようにして、右に曲がっているように見えます。
その先に、まだ緑の草原がたなびいて、空が白々しく広がっている、あの絵です。
東山魁夷の『道』の絵は、人生の道。
私が東山魁夷に興味を覚えたのは、彼が生前出演された、テレビのドキュメンタリーでした。
それは、欧州を旅行し、各地で写生をしている東山魁夷を映したものでした。
その写生をもとに、ヨーロッパの風景を日本画で描いた絵画には、静謐さの中に、凛とした気品が溢れる絵だったのです。
東山魁夷の生い立ち。
東山魁夷は、1908年(明治41年)に、船具商を営む商家の次男として、横浜市海岸通りで生まれました。
東京藝術大学の日本画科へ入学し、1933年にドイツのベルリン大学(現フンボルト大学)に留学しています。
あの『道』の絵は、1950年に発表されたのです。
前方へ真っすぐ伸びる道だけを描き、単純化した画面構成で、独自の表現を築いた絵です。
真っすぐ伸びた道の分かれ道。
あの真っすぐな道にも、たぶん分かれ道が、現れるんじゃないかと思います。
その時、東山魁夷は右に行ったんでしょうか、それとも、左だったんでしょうか。
人生には、選ばなければならない道に、何回も遭遇します。
人生を大きく左右する、選択の道。
受験、就職、転職などで、その道の行き先に悩み、自分の人生を、大きく左右する、選択の道が待っています。
就職試験会場で会った男。
私は就職の時に、就職試験会場で始めて会った、その男と凄く意気投合しました。
就職試験会場というと、そこはライバルたちとの競争の場です。
その場所で、その男は一つ、抜き出ているように思えました。
就職試験の帰り道、その男と喫茶店へ行き、長く話し込んでいました。
その時、その男が「もう一社良い会社があるんだけど、君に丁度良いから受験して見たら。」と情報を呉れました。
そこで早速、その会社も受験しました。すると、最初の会社を含め、2社から合格通知が届いたのでした。
たった一度会った男に、自分の人生を選ぶ。
そこで、私はどちらの会社に、入社したら良いのかで悩みました。
彼が入るであろう最初の会社が良いのか、彼から情報を貰った、別の会社が良いのかで悩みました。
何故なら、私は、彼が入るであろう会社に入社しないと、もう一生、彼とは会えるチャンスが、無くなると思っていたからです。
それほど気になる男だったのです。
私の出した結論は、彼が入るであろう会社に、入社する事を選びました。選んだ後も、この選択が正しかったのか悩みました。
人生には迷うことがある。
自分の選択は正しいのか。
何故なら、彼が私と一緒に受験した会社に、彼が合格しているかも、分からなかったからです。
それは、就職活動会場で、その場限りだったので、連絡先も聞いていなかったからでした。
でも、彼はきっと、合格しているだろうし、入社する筈だと、自分自身い言い聞かせて、漠然とした期待だけは、持っていました。
それほど、就職試験会場のその男は、魅力的な人物だったのです。それも、たった数時間会っただけの、男だったのでした。
そして、入社式に行くと、そこに彼がいたのです。彼は頭が良く、自信に満ち溢れ、リーダーシップに優れていました。
入社式の帰り道、彼と再会の祝杯を上げたのは、言うまでもありません。
不思議な巡り合わせは、まだ続きました。
彼とは、配属された部署も同じで、それから、長い時間を、一緒に過ごすことになったのでした。
仕事の時間も、退社後のアフターファイブでも、良く二人で飲みに行き、仕事のことや、将来のことなどを、話し合っていたのです。
そして、仕事上では、彼とは常に比べられ、そして、常に彼が先んじていました。
親友はライバルでもある。
ライバル関係。
私生活もそうです。結婚も、家を買うのも彼が先で、私はいつも、彼の後塵を配していたのです。
そして、二人は仕事面でライバルでした。でも私は、いつまで経っても、彼を超えられませんでした。
そんな状況にも関わらず、私はあの時、何であのような選択をしたのでしょうか。
たぶんそれは、彼の魅力に惹かれたからだと思います。そんな男に合うのは初めてだったのです。
でもある頃から、お互いのライバル心が強くなりすぎて、以前のように、飲み合う仲では、無くなってしまったのです。
そして、たった一度会っただけで、就職先も決断した事に、後悔は無いのかと自問したのです。
そんな中で、二人同時にポストに付きました。私がポストに付けたのは、ライバルの彼がいてくれた、お陰だと思いました。
突然、消えてしまった男。
それから10年数後、彼は突然に会社を辞めてしまい、私たちの前から、姿を消してしまいました。
たまに、彼はどうしているか、ふと脳裏をよぎります。
ある時、東山魁夷の展覧会に行って、あの有名な絵『道』に、やっと出会うことが出来ました。
その『道』の絵は、真っすぐ伸びている道が、ちょっと丘を超えるようにして、右に曲がっているように見えます。
あのカーブの先あたりに、分かれ道があって、私たちに転機があったのかな、
でもあの日、彼と出会わなければ、今の自分もありません。
そして、就職時に私が随分悩んだ、もう1社の、別の会社は、その後、吸収合併されてしまいました。
あの別の会社に就職していたら、待遇面で厳しい状況に、追い込まれてしまったかもしれません。
あの男に助けられたような、何とも、不思議な感じがしました。
あの日、彼と出会っていなければ、今の自分はありません。
あの日、たった1回、それも数時間、彼と出会った事が、その後の、私の人生を決めたと言っても、過言ではありません。
東山魁夷の『道』の絵を見る度に、不思議な縁の道があったんだったと思うのです。
人生とは何と不思議なものでしょう。