太宰治『斜陽』美しい冒頭の一文・言葉・あらすじ・名言。




太宰治『斜陽』没落貴族を描いた冒頭・あらすじ・名言

戦後の没落していく貴族を描いた小説『斜陽』は、太宰治晩年の1947年(昭和22年)に出版されました。

作品のタイトルに由来した、没落貴族を意味する「斜陽族」と言う言葉が生まれる人気となった、太宰治の代表作の一つです。

そして、この作品が発表された翌年、太宰治は38歳という年齢で、愛人と玉川上水に入水自殺をしてしまうのでした。



太宰治『斜陽』の冒頭




朝、食堂でスウプを一さじ、すっと吸ってお母さまが、
「あ」
と幽かすかな叫び声をお挙げになった。


母親のスープの飲み方の所作が、

美しい文章で綴られ、この一文だけで貴族の雰囲気を醸し出す、印象的な冒頭のシーンとなっています。

『斜陽』の主な登場人物は、主人公で作品の語り手である元華族令嬢かず子(29歳)

元華族夫人で爵位を持つ夫を亡くし、離婚したかず子の面倒を見ている、かず子の母。

そして、かず子の弟の直治と、直治が憧れる小説家の上原二郎です。

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『斜陽』のあらすじ。



『斜陽』の主なあらすじは、

物語の語り手であり旧貴族のかず子と、かず子の母は、戦後の時代の移り変わりによって貴族階級から没落し、

贅沢な暮らしをしていた東京の屋敷を売り払い、伊豆の山荘に引っ越すことになります。

そして、戦争で死んだと思われていた弟の直治が、

アヘン中毒になりながらも生きていることがわかり、かず子と母親の住む伊豆の家に帰って来ます。

その後、母の体調は悪化、母が亡くなった後、どうやって生きていくかを考えた時に、

かず子は、6年前に一度だけ会ったことがある、直治の尊敬する小説家で妻子のいる上原二郎に、

「愛妾にしてほしい」「あなたの子供がほしい」と三通の手紙を送ります。

そんな中、弟の直治が自殺してしまうのでした。

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戦後の中で社会制度が変わった。


1945年(昭和20)8月14日、日本政府はポツダム宣言受諾を連合国に通告し、無条件降伏します。

そして敗戦後、日本は7年間にわたり、アメリカ主力の連合国軍の占領下に置かれます。

こうした状況下で、社会制度や価値観が急速に変わる中、敗戦後2年目にして、この小説が発表されます。

財閥解体が行われ、多くの皇族は皇籍離脱を余儀なくされ、

それに伴い華族制度も解体される中で、時代の変遷で没落してゆく貴族の末路を、この小説は描いています。

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太宰治の人生と重なる。


そこには、太宰治自身が背負っていた、裕福な家庭環境と家長制度が、オーバーラップしているようにも見えます。

太宰治は、1909年(明治42年)に青森県金木村(現:五所川原市)で生まれます。

彼の本名は、津島修治。生家は古くから津軽で名を知られた旧家であり、この地方で有数の大地主でした。

太宰治は病弱な母に代わって乳母に育てられ、幼少時代は子守女中によって育てられたのです。

こうした家庭環境が「家への反抗」と捉えられる、太宰治の文学の素地になったのかもしれません。

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『斜陽』の中の名言。


『斜陽』の中には、多くの名言が散りばめられています。その中から印象に残ったフレーズを列挙してみました。


「爵位があるから、貴族だというわけにはいかないんだぜ」(直治)


「おむすびが、どうしておいしいのだか、知っていますか。あれはね、人間の指で握りしめて作るからですよ」(母)


いまはもう、宮様も華族もあったものではないけれども、しかし、どうせほろびるものなら、思い切って華麗にほろびたい。(かず子)


人間は恋と革命のために生れて来たのだ。(かず子)


姉さん。僕には、希望の地盤が無いんです。さようなら。(直治)

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『斜陽』の中の注釈。


この作品には多くの注釈が入っています。

今から75年も前の時代ですから、注釈は致し方ないのでしょうが、そこには多くの文学作品の注釈もあります。

それらは太宰治の読書遍歴にも思えるし、彼の素養の高さを示しているのかもしれません。

注釈の中から、気になるものを書き出してみました。気になったら堀り下げるのもいいですね。


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