アルベール・カミュ『異邦人』殺意の動機は太陽のせい!




アルベール・カミュ『異邦人』殺意の動機は太陽のせい!

『異邦人』はアルベール・カミュの代表作で、

アルジェリアに暮らす青年ムルソーが、友人のトラブルに巻き込まれ、銃で男をあやめてしまいますが、その少しの前に、

母の葬式で涙を流さず、翌日に女と遊んでいたことなどから、計画的犯罪を企てた、凶悪な人間として裁かれる話しです。



不条理の世界観『異邦人』




「きょう、ママンが死んだ。 もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない。養老院から電報をもらった。「ハハウエノシヲイタム。マイソウアス」これでは何もわからない。恐らく昨日だったのだろう。」


これは『異邦人』の冒頭部分の一節です。

1942年刊のこの小説は、人間社会に存在する不条理について書かれていて、

アルベール・カミュの代表作の一つとして数えられています。

1957年に、カミュが43歳でノーベル文学賞を受賞したのは、この作品によるところが大きいと言われているのです。

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アルベール・カミュ『異邦人』あらすじ


アルジェの輸出関連の会社で働く青年・ムルソーは、老人ホームで暮らす母が亡くなったと言う電報を貰い葬式に向かいます。

母の葬式のために養老院を訪れたムルソーは、涙を流すどころか、特に感情を示さず、冷静に見えたのです。

その後のある日曜に、彼は友人レエモンのトラブルに巻き込まれます。相手のアラブ人の男が刀を持ち構えたのです。

ムルソーは汗がまぶたに流れ、太陽と刃で反射した光のちらつき以外、見えなくなってしまいます。

ムルソーはレエモンから預かっていたピストルで、そのアラブ人の男を撃ち、命を奪ってしまったのです。

裁判の日、法廷には大勢の人が集まっていました。

そして、母の葬式で涙を見せなかった事、その時、母の年齢を聞かれても分からなかった事、

葬式の翌日に、普通の日のように、女と遊んでいたことなどから行動を問題視され、

ムルソーは、人間味のかけらもない冷酷な人間であると糾弾され、予め犯罪を計画したと言うレッテルを貼られてしまいます。

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「太陽が眩しかったから」

裁判長から、言い足すことが無いか求められたムルソーは、

「あらかじめ命を奪おうと意図していたわけではない」と証言します。

裁判長に動機を問われると、「太陽が眩しかったから」と言ったのです。その答えに廷内に笑い声が上がります。

弁護士は最善を尽くしますが、ムルソーはいつも上の空で、

「暑い」「眠い」「マリィは髪を結ばないで散らしている方が美しい」など、全く関係のないことを考えています。

それでも弁護士は、ムルソーは勤勉で人に愛される人間であると、日頃の行いを挙げ、

衝動的な犯行だったと主張しましたが、下された審判は極刑でした。

死刑を宣告されたムルソーは、刑の日を待つ中、懺悔を促す司祭を監獄から追い出し、

信仰心を求める司祭に対して信念をこき下ろし、「私は私の人生に自信を持っている」とキレて罵ったのです。

そして、死刑の際に人々から罵声を浴びせられることを、人生最後の希望にしたのです。

最後まで、世の中にふらふらと流されるように生きるムルソー。それは世の中の「不条理」が、彼を死に追い込むのようでした。

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殺害の動機は太陽のせい。



ムルソーが言った殺害の動機「太陽が眩しかったから」言い換えれば「太陽のせい」とは、何だったのでしょうか?

『異邦人』のキーワードは「太陽」ではないでしょうか、この作品には何度も、太陽に関する記述が登場します。

その照りつける太陽と、ムルソーの心の薄暗さのコントラストに、『異邦人』の奥深さがあるようです。


「陽の光で、頬が焼けるようだった。眉毛に汗の滴がたまるのを感じた。それはママンを埋葬した日と同じ太陽だった。

あのときのように、特に額に痛みを感じ、ありとあらゆる血管が、皮膚のしたで、一どきに脈打っていた。

焼けつくような光りに耐えかねて、私は一歩前に踏み出した。私はそれがばかげたことだと知っていたし、一歩体をうつしたところで、太陽からのがれられないことも、わかっていた」 

(『異邦人』より引用)

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「太陽のせい」の意味とは。


太陽の眩しさ、激しい暑さから逃れるために、発砲したと言う殺害動機が、この作品の根底に流れます。

題名の『異邦人』とは、自国以外から来た人間という意味ではなく、他の人とは異なった、人間という意味なのではないでしょうか。

母親が死ねば、息子は悲嘆に呉れ、その悲しみに沿ったの行動をするべき。と言うのが世間一般の常識です。

しかし、感覚がずれたムルソーは、世間が期待しているような、反応を取ることが難しかったのかもしれません。

その違和感を象徴するものが「太陽が眩しかったから」なんじゃないかと、読者に問い掛けているようです。

世間一般の人たちは、「太陽が眩しかったから」と言う理由を以て、殺人の動機にはなりません。

しかしムルソーは違っていたのです。

彼なりに様々感じて、最後にその太陽が、彼を消耗させてしまったのかもしれません。

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