朝日新聞2022年3月12日に、「今こそ!読みたい児童文学」ランキングが掲載されました。
子どもの頃に読んで好きになった本は、
一生寄り添う仲間になって呉れて、年齢、状況、心持ちによって、読むたびに、違う風景を見せて呉れるようです。
絵本を除く「子ども向け小説」で、今こそ読みたい作品は、こんな順位がついていました。
児童文学ランキングベストテン
第1位。『星の王子さま』サン=テクジュペリ
物語は、サハラ砂漠に不時着した飛行士と、宇宙の小さな星からやって来た、王子さまとの交流を描いています。
王子さまがふるさとの星や、旅の途中で触れ合った人、バラ、ヘビなどについて語ります。
この小説で、もっとも有名なのが、地球で出会ったキツネです。そして、王子さまに、その秘密を明かすのでした。
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目には見えないんだよ」
この言葉に、心を震わせた人も多くいる筈です。
そして、王子さまが地球に来て1年の歳月が過ぎ、飛行士との別れの時が訪れたのです。
『星の王子さま』は、第2次世界大戦の最中、1943年にアメリカ・ニューヨークで出版されました。
初めての日本誤訳は1953年です。
2005年に著作権の保護期間が終了すると、日本でも複数の出版社から、様々な「新訳」が登場し、
今では、300以上の国や地域の言葉に翻訳されているのです。
星の王子さまオリジナル版 [ アントアーヌ・ド・サン・テグジュペリ ]
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【抽出】
第2位。『モモ』ミヒャエル・エンデ
町はずれの円形劇場の廃墟に迷い込んだ、もじゃもじゃ頭の、芯の強い少女モモが、「時間どろぼう」と戦う物語です。
この作品のテーマは時間。灰色の男たちが言葉巧みに、人々から人生の時間を、奪い取って行きます。
人々は時間を倹約しようとして、仕事をはじめ、それによって日々の暮らしに余裕をなくし、心がすさんで行きます。
著者はこの物語を、汽車で乗り合わせた、見知らぬ乗客が語った形にしています。
その乗客に「過去におこったことのように話しましたね。でもそれを将来おこることとして、お話ししてもよかったんですよ」と、語らせているのです。
『モモ』は、1973年に発表されました。50年近く経っても変わらぬ問題として、人を悩まし続けると見越していたようです。
「なぜ、こんなに忙しくて苦しいのか」と言う悩みを、
「時間どろぼう」と表現して、多くに人が抱える悩みを可視化したことで、幅広い層が共感しているようです。
モモ 時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語 [ ミヒャエル・エンデ ]
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第3位。『ハリー・ポッター』J.K.ローリング
11歳の誕生日に、魔法魔術学校の入学許可証を贈られたハリー・ポッターが、仲間と学び、強大な魔法使い対決する物語です。
1990年代のイギリスを舞台に、魔法使いの少年ハリー・ポッターの学校生活や、
ハリーの両親を殺害した張本人でもある、強大な闇の魔法使い、
ヴォルデモートとの因縁と戦いを描いた物語で、1巻で1年が経過する内容です。
第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』が、ロンドンのブルームズベリー出版社から、1997年に刊行されました。
まったく無名の、イギリスの新人作家・J.K.ローリングによる作品で、
初作であるにも関わらず、またたく間に、世界的ベストセラーになったのです。
シリーズ全7巻で、日本語版は2008年に完結しました。
<新装版>ハリー・ポッターシリーズ 全7巻11冊セット [ J.K.ローリング ]
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第4位。『魔女の宅急便』角野栄子
13歳のキキと、相棒の黒猫ジジが自立するために、ほうきで空を飛んで、知らない街で荷物を届ける仕事を始めます。
そんなキキが、色んな経験や、葛藤を通じて成長し、町の人に受け入れられるまでを描いた物語です。
『魔女の宅急便』と言えば、宮崎駿監督、スタジオジブリによる名作中の名作ですが、
なんと原作本が存在し、それは児童書となっています。
『魔女の宅急便』第1巻は1985年に発売されました。
そして、最終巻となる第6巻は、2009年に発売されていて、約24年も続いた超大作なのです。
原作本は第6巻までと、特別編の二つが発売されているのですが、
映画『魔女の宅急便』では、原作本の第1巻の前半を中心に、制作されているのだそうです。
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第5位。『長くつ下のピッピ』アストリッド・リンドグレーン
1945年にスウェーデンで刊行された『長くつ下のピッピ』は、世界中で人気となりました。
「あしながおじさん」にヒントを得て、作者リンドグレーンの小さい娘さんが、
「ねえ、長くつ下のピッピって女の子のお話を作って」と母に頼んだ事で生れたのが、この世界一強い少女の物語だったのです。
主人公のピッピは、赤毛をツインテールの三つ編みにした、
そばかすだらけの女の子で、足には右と左で色の違う、長い靴下を履いています。
船長だったお父さんが行方不明となってしまい、
お母さんは既に亡くなっているので、たった9歳で、天涯孤独の身となってしまいました。
しかし、お父さんが2人で暮らすために用意して呉れていた別荘、「ごたごた荘」の存在を知ります。
トランクにいっぱい金貨をつめて、サルのニルソン氏を連れて、行ってみることにしたのです。
ピッピの生き方に、子どもは自分の夢の理想像を発見するでしょうし、大人は懸命な生き方に、感銘する事でしょう。
こんにちは、長くつ下のピッピ [ アストリッド・リンドグレーン ]
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第6位。『ビルマの竪琴』竹山道雄
戦争の悲惨さと共に、音楽の力で、国境を超えて、人々が繋がっていく様子も、生き生きと描かれています。
第二次世界大戦時の1945年、現在のミャンマーであるビルマに、音楽学校出身の隊長が率いる、日本軍の部隊がいました。
彼らは、歌を歌うことで隊の士気を高め、労わりあい、団結していました。
特に水島上等兵が奏でる竪琴は素晴らしく、
隊員たちは彼の演奏を聞きながら、いつ戦闘が始まるかもしれない状況の、自らを鼓舞していたのです。
作中で何度も歌われるのが「埴生の宿」の楽曲です。
この曲の原曲は、1823年に作詞作曲された「ホーム・スウィート・ホーム」。
イギリスで上演されたオペラの中の1曲で、宮殿暮らしをすることになったヒロインが、
貧しくも満ち足りていた故郷の家を懐かしむと言う内容です。
『ビルマの竪琴』では、水島たちが歌う「埴生の宿」にあわせ、イギリスの兵士たちも歌いだし、
敵も味方も関係ない、大合唱となる様子が描かれています。
双方にとってこの歌は、故郷を彷彿とさせるものだったのでしょう。
ビルマの竪琴 (新潮文庫 たー12-1 新潮文庫) [ 竹山道雄 ]
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第7位。『クマのプーさん』A.A.ミルン
世界一有名なクマは、イギリスで1926年に発売された、A・A・ミルンの児童小説で登場しました。
愛くるしいイラストは、E・H・シェーパードが、描いたものです。
ミルンの息子、クリストファー・ロビンと、ぬいぐるみのクマとの、冒険を描いた作品で、
プーと森の仲間たちとの、100のエピソードが描かれていて、A・A・ミルンの、40代の頃の作品のようです。
主人公たちの性格描写が魅力的です。
プーさんは、ハチミツが大好きで、礼儀正しく仲間思いですが、ご馳走には、目がありません。
コブタのピグレットは、プーさんの親友で、ドングリが大好物です。
クリストファー・ロビンは「何もしない事」を、彼の信条としています。
この他、ティガー、イーヨー、森一番の物知りで、読み書きが出来る、フクロウなどが登場します。
プーさんの原型は、1921年クリストファー・ロビンが、1歳の誕生日プレゼントとして、
ハロッズで購入したテディベアを、彼が持っていた事に、由来しているようです。
クマのプーさん (岩波少年文庫 008) [ A.A.ミルン ]
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【抽出】
『くまのプーさん』誕生秘話と『プーと大人になった僕』。
第8位。『ノンちゃん雲に乗る』石井桃子
ノンちゃんは、清々しく目が覚めましたが、なんだかいつもと違う朝の雰囲気です。
食卓を囲んだ時に、ノンちゃんは、お母さんと兄ちゃんがいないことに気づき、大泣きしてしまいます。
大きな木に登り、池をのぞいていたノンちゃんは、池に落ちてしまいますが、気づくと、なんとそこは水の中の雲の上でした。
そこは、とてもまぶしく、はてしない青の世界…。
戦後出版されると同時に、多くの読者に感銘を与えた名作で、今も変わらぬ新鮮さに溢れた日本童話の古典的存在です。
ノンちゃん 雲に乗る (福音館創作童話シリーズ) [ 石井桃子 ]
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第9位。『ナルニア国物語』C.S.ルイス
『ナルニア国物語』は、イギリスの文学者C・S・ルイスが手掛けた児童文学シリーズで、
1950年に1巻の『ライオンと魔女』が刊行されました。
主人公の少年少女たちが、冒険を通して成長していく過程が、鮮やかに描かれています。
各国で翻訳され、世界中で1億2000万部以上が刊行され、更にハリウッドで映画化もされました。
物語の舞台となるナルニア国は、創造主である、アスランと言うライオンが創った世界です。
イギリスで暮らす、ペベンシー家の4人のきょうだいは、アスランの導きで、古い衣装ダンスを通じてナルニア国へと呼ばれ、
人々を苦しめる悪と戦いながら、たくましく成長していきます。
『ナルニア国物語』シリーズでは、聖書の世界観が色濃く反映されています。
しかし教訓めいたものはなく、魔法世界の楽しさと、試練に立ち向かっていく、子どもたちの勇気が描かれています。
魔術師のおい (カラー版 ナルニア国物語) [ C.S.ルイス ]
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第10位。『少年探偵団』江戸川乱歩
日本を代表する推理小説家、江戸川乱歩が、子ども向けに執筆したのが「少年探偵団」シリーズです。
初めて発表されたのは、第二次世界大戦前の1936年のことです。
雑誌「少年倶楽部」に連載され、子どもたちの間で大人気になりました。戦後連載が再開されると、更に人気が広がりました。
シリーズに登場する「少年探偵団」は、
名探偵・明智小五郎の弟子である、小林芳雄少年を団長としている、子どもだけの探偵団です。
結成の経緯は、1作目の『怪人二十面相』で、明智小五郎がさらわれてしまった事が原因です。
師匠の帰りを待つ小林少年に、怪人二十面相から、宝石を狙われていた羽柴家の息子が提案し、
10人の少年少女から成る「少年探偵団」が誕生したのです。
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番外第12位。『君たちはどう生きるか』吉野源三郎
『君たちはどう生きるか』という本は、1937年(昭和12年)に刊行されました。
昭和12年と言えば、第二次世界大戦が始まる2年前のことです。
当時の、先行きの見えなくなりつつある世の中で、
生きてゆくために、本当に必要なものは、何が必要なんだろうと、考えさせて呉れる名著です。
この本の根底にあるのは、今も昔も変わらない人生のテーマである、いじめ、貧困、差別などに対して、
如何に勇気を持って立ち向かうべきなど、考えさせらえるものです。
主人公のコペル君(本名:本田潤一君)は、旧制中学2年生の15歳です。
銀行員の父親を3年前に亡くし、父親に代わって相談役を買って出たのが、母親の弟で、無職のインテリの叔父でした。
いじめに対して勇気を出して、如何に対峙すれば良いのかを、考えさせて呉れる作品です。
この本は、一言で言えば「若者のための哲学書」のような本なのです。
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