「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」
ブレイディみかこさんの、『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、
2019年の本屋大賞の、ノンフィクション本で大賞受賞し、話題の本になっています。
その内容や、著書の感想から、イギリス社会制度を考察して行きます。
イギリスの社会制度。
この本は、イギリス在住の、ブレイディみかこさんの息子さんが、イギリスの中学に進学を迎える中で、
彼がイギリスの社会制度や、階級社会、格差社会の矛盾や、制度に戸惑いを感じながらも、中学校生活を過ごす、1年半の姿を描いています。
そこには、日本と違う、イギリスの社会制度や、階級社会の問題が、根底にあるようなのです。
イギリスには、どんな社会制度や、階級社会があるかを知ることで、改めて、日本の良さを再認識させられる作品になのです。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2 [ ブレイディ みかこ ]
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著者、ブレイディみかこさんは、1965年(昭和40年)福岡生まれです。
高校卒業後は、アルバイトと渡英を繰り返し、1996年(平成8年)から、イギリスの南端のブライトンに在住して、20年以上暮らしていると言います。
ロンドンの日系企業で数年勤務した後、イギリスで保育士の資格を取得し、
彼女が言う「底辺託児所」の保育施設で、働きながらライター活動をしています。
2019年に『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を刊行すると、たちまち話題の本となったのです。
『ぼくはイエローでホワイト…』の内容。
ブレイディみかこさんのご家族は、アイルランド人の夫と、息子さんが一人います。
配偶者の夫は、ロンドンの金融街シティにある、銀行に勤めていましたが、
数年後にリストラに遭うと、子供の頃から、やりたいと思っていた、大型ダンプの運転手に転職したのです。
主人公の息子さんは、日本人の母と、アイルランド人の父の間に生まれたことで、
自分のアイデンティティが、日本なのか、それとも、イギリスなのかに悩みながら、思春期を迎えていたのです。
国語ノートの落書き。
ある朝、ブレイディみかこさんは、息子さんの部屋にある、机の上の国語のノートに目が留まりました。
それは、先生からの赤ペンで添削が入っていて、
「ブルー」という単語はどんな感情を意味するのか、と言う質問で、息子さんは間違った答えを書いてしまったのでした。
「「怒り」と書いたら、赤ペンで思いっ切り直されちゃった。」と、夕食時に息子さんが口にしたのを思い出したのです。
青い色のペンで、ノートの端に、小さく体をすぼめて、息を潜めているような筆跡で、
「僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー」と記されていたのです。
息子さんに何があったのでしょう。
この「ちょっとブルー」が、心に刺さり過ぎます。でも、子供は意外にたくましいのです。
彼の取り巻く世界の中で、どこで、どう折り合いを付けて行けば、
居心地よく生活できるかの術を、息子さんは、身に着けてゆくことになるのです。
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー The Real British Secondary School Days/ブレイディみかこ |
「ゆりかごから墓場まで」
イギリスの社会制度を象徴する言葉として「ゆりかごから墓場まで」と言う言葉があります。
これは、福祉大国イギリスを表わして言葉で、ナチスドイツとの激戦から、イギリスを勝利に導いた、
ウィンストン・チャーチル首相が残した言葉で、第二次世界大戦後の、社会福祉を充実させるための、スローガンだったようです。
この社会制度は、イギリス国民や、居住する外国人に対し、
原則無償で医療を提供するシステム「国民保健サービス(NHS)」と呼ばれ、70年以上にわたる制度なのです。
そして、この制度を維持する財源は、ほぼ租税で賄っていると言うのです。
この「国民保健サービス(NHS)」は、1948年に創設されて、2017年現在で、国家予算の20%が使われているようです。
福祉国家と言うと、今では北欧3ヵ国が有名ですが、その発祥は、イギリスだったのです。
手厚い保障制度。
そして、その保障制度がとても手厚いのです。
原則無償で医療が受けられるに始まり、出産が無料、妊娠から産後1年は歯科治療が無料、
子供の歯科治療が18歳まで無料、等々があって、至れり尽くせりのようなんです。
そして、その手厚い福祉の裏には、重い税負担があることを、忘れてはならないのです。
国が助けるのは当たり前の風潮。
こんな事からか、国が助けて呉れるのが当たり前、と言う風潮があるようなんです。
社会保障で暮らすのが、当たり前になっている社会構造が一部にあって、
両親、祖父母、叔父、叔母など親戚の中で、誰も就職を経験したことが無い、と言う話があるようなんです。
こんな話は、日本では聞いたことがありません。
給食費補助制度
「お昼時間は、ずっとお腹が空いていた」
イギリスの学校には、給食費補助制度があって、1日320円、1ヵ月6,400円が限度の補助がありますが、
これを超えてしまった子供たちの中には、昼食が食べられなくなる子供がいるようです。
なので、「今日は、どんな昼休みだった?」との回答に、「ずっと、お腹が空いていたんだ。」の、答えが返って来ると言います。
そのため、教師たちが昼食代を工面したり、バス代を支援する先生までいるようなんです。
お金が無いことで、得られる筈のチャンスが奪われてしまうのです。
学校ランキングの弊害。
こうした格差は、住むところに現れていて、
学校ランキングで上位になるに連れて、そうした学校の地区の住宅価格は上昇し、富者と貧者の棲み分けが、進んで行っているようです。
そして、そのことが、近年では「ソーシャル・アパルトヘイト」と、呼ばれる社会問題になっているようなんです。
ブレイディみかこさんのお宅は、
荒れている地域と呼ばれている、近所の学校ランキングでも、底辺あたりを彷徨っている、元公営住宅地に住んでいます。
この現状が正に、棲み分けの象徴のように描かれています。
イギリスの抱えている現実が、子供たちの世界にも、大きく影響していることを、教えて呉れた一冊でした。
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