三浦しをんさんの小説『舟を編む』は、2012年に本屋大賞を受賞した後、
2013年には映画化され、その後アニメ化もされました。
それは「辞書の編纂」と言う、一見地味な仕事にスポットライトを当てた作品です。
『舟を編む』あらすじ。
玄武書房に務める荒木公平は、その人生の大半を辞書編纂に捧げて来ました。
辞書編集部は出版社の中でも、日の当たらない日陰の部門でした。
辞書の編纂は、その計画、企画、調査から完成までに、何年も、何十年も掛かる事があることで、
出版社の中では、直ぐに利益を生み出さないと揶揄される、そんな部署だったのです。
そんな中で、定年間近な彼は、妻の具合が悪いこともあり、定年退職を決意をします。
そんな彼にとって心残りなのは、
これまで長年仕事を共にして来た、国語学者で辞書監修者の松本と企画した辞書『大渡海』(だいとかい)の事でした。
辞書作りはその特殊性ゆえに、適した人材もかなり限られます。
しかし、辞書編集部は常に人材不足で、
今も荒木を除けば、営業向きだけれど辞書には向かない軽薄な西岡と、実務を担当する契約社員の佐々木だけでした。
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辞書編集部を引き継ぐに際し、社内で人材を探す中で、営業部にいた馬締光也(まじめ)と言う社員を見出します。
新たに作ることになった辞書『大渡海』(だいとかい)の編集を、彼に任せようとしたのです。
馬締光也(まじめ)は、 律儀だけれども、トンチンカンなところもある男でした。
彼の下宿先のアパートは、廊下まで本に埋め尽くされ、
彼は大学院で言語学を専攻するほど、「言葉」に興味を抱いていたのです。
彼は、一見冴えなく、見た目は頼りなく見えますが、言葉に対する鋭い感覚を持ち、
整然とした美を愛するという、辞書作りにはぴったりの才能を持主でした。
異動当初は、辞書編集部になじめずに、悩んでいた馬締(まじめ)でしたが、
自分の中に、言葉を使って「伝えたい」「つながりたい」という感情がある事に目覚めます。
一方、辞書編集部にいるもう1人の社員・西岡は、馬締とは対照的に、お調子者で、チャラいところのある男です。
辞書には思い入れはなかったものの、辞書の編纂作業に打ち込み、尽くしていました。
しかし、馬締という辞書づくりの才能を持った人間が異動してきたことで、
「自分はお払い箱になる」という予感を感じ始めます。
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三か月後。
彼の下宿先である早雲荘に、大家のタケの孫である林香具矢がやって来て、一つ屋根の下で暮らすことになります。
馬締は一目見て、香具矢のことが好きになりますが、この気持ちをどう伝えていいのか分からず、悶々としていました。
香具矢は板前修業で『梅の実』と言う料理屋で働いていました。
香具矢は仕事に夢中で、彼女の邪魔をせずに思いを伝えるには、どうしたらいいのだろうと、馬締は悩むこととなります。
そんな中、西岡に広告宣伝部への異動が言い渡されます。
西岡は、辞書編集部を去る前に、馬締が苦手とする対外交渉に励むようになっていました。
そして、どの部署へ行っても同僚として『大渡海』を全力で支えることを決意します。
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十三年後。
玄武書房に入社して三年が経つ岸辺みどりは、異動で辞書編集部にやって来ます。
そこには主任となった馬締がいました。
みどりは最初の仕事として、『大渡海』に使用する、紙のサンプルの説明を馬締と受けます。
それは『大渡海』のためだけに特注の紙で、みどりはサンプルを触って驚きます。
それはとても薄くて軽いにも関わらず、印刷した時が裏に透けて見えません。
さらに、指に紙が吸いつく『ぬめり感』までに注意を払うほど、馬締が熱意を持って、辞書作りをしているのを知るのでした。
そしてついに『大渡海』は完成しました。
しかし『大渡海』に心血を注いて来た、国語学者で辞書監修者の松本が、亡くなった後だったのです。
この物語には、辞書編纂に人生をかける人々が、それぞれが情熱を持って仕事に邁進する姿が描かれます。
そんな彼らの仕事ぶりに、辞書というものの奥深さに気付かされる作品です。
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『舟を編む』の意味の由来。
この小説のタイトルは、
「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」という意味でこの書名が付いています。
『舟を編む』の名言・名台詞
「右という言葉を説明できるかい」
それを見ていた荒木が、自身の後継者を探す中で、馬締に問いかけた言葉です。
すると馬締は少し考え、「西…を向いた時、北…にあたる方が右」と答えます。
そのあとも「保守的思想を右と言う…」と呟きながら足早に自分の席に戻り、辞書を引き始めたるのでした。
「誰かとつながりたくて、広大な海を渡ろうとする人たちに捧げる辞書。それが大渡海です。」
辞書監修者の松本(加藤剛)の台詞です。
居酒屋の片隅で放ったこの言葉には、『大渡海』を「今を生きる辞書」にしたいと言う思いが伝わって来ます。
『大渡海』には、正しい言葉だけではなく、現代語や誤用など、世の中に浸透しているものは全て載せたい。
そして言葉の意味を知ることは、他人の考えや気持ちを知りたいということで、
人とつながりたいという願望であり、この辞書は今を生きる人に向けて作られるべきだ、と言うものだったのです。
「“恋”の語釈は馬締さんに書いてもらいましょう。きっと生きた語釈ができます」
国語学者で辞書監修者の松本が、恋に悩み、恋に苦しむ馬締に投げ掛けた言葉です。
悩むこと、苦しむことが多ければ多いほど、真摯に向き合うことで、良い解説が出来ると、松本は思ったのです。
「手紙じゃなくて、言葉で聞きたい。みっちゃんの口から聞きたい、今」
林香具矢が馬締光也に言った言葉です。
恋に未熟な二人でしたが、
手紙で自分の思いを届けようとした馬締に対し、林香具矢は、今の気持ちを言葉に表して欲しいと放ったのです。
「恋。ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。成就すれば、天にものぼる気持ちになる」
辞書編纂する中で、「恋」の意味を、馬締光也が自分の体験を通して、絞りだした言葉です。
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ドラマ『相棒』の辞書の神様。
ドラマ『相棒』の中でも、辞書編纂に命を懸けた男の物語がありました。
それは『相棒』Season17第3話の「辞書の神様」でした。
そこで辞書にまつわる事柄で、殺人事件が起きます。
それは『千言万辞』と言う辞書の編集者が、何者かに殺害されてしまい、
その遺体が公園で発見されるところから、事件が始まります。
『千言万辞』と言うのは、架空の辞書のようですが、たぶん『広辞苑』や『大辞林』のような辞書を、イメージしたのでしょう。
その辞書は、厚さも『広辞苑』と同じ位に厚く、赤い外箱の中に、赤く装丁された『千言万辞』の辞書が入っていました。
ドラマでは、被害者が最後に公園で出会った人物が、捜査線上に浮上して来ます。
その人物が、『千言万辞』を作っている「辞書の神様」と呼ばれている、元大学教授の大鷹公介(森本レオさん)です。
「辞書の神様」は、言葉に取りつかれ、辞書に生涯を捧げているような、偏屈な人物で、
捜査の目が、その元大学教授に注がれる展開です。
彼は、120万語の言葉を集めて来ました。
辞書の業界では20万語集めれば、驚異的と言われており、正に、神様の域に達していたのです。
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「三浦しをん『舟を編む』小説・映画のあらすじと名言。」への4件のフィードバック
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