川端康成『雪国』冒頭は知ってますが、内容はご存じですか?




川端康成『雪国』誰でも冒頭は知ってても中味はどうなの?

川端康成の『雪国』、その冒頭部分は誰もが知っています。しかし、物語の内容はどんなものか知っていますか?

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」と言うシーンから連想すると、汽車に乗って、雪のない土地から、トンネルの黒い世界に入り、

その長いトンネルを抜け出た途端、景色が白一色の世界になり、雪国に来たんだなと、視覚的に想像させる効果が際立ちます。



川端康成の『雪国』の冒頭。



誰でも知っている冒頭部分。


「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

向側の座席から娘が立って来て、島村の前のガラス窓を落した。雪の冷気が流れこんだ。

娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ呼ぶように、「駅長さあん、駅長さあん」

明りをさげてゆっくり雪を踏んで来た男は、襟巻で鼻の上まで包み、耳に帽子の毛皮を垂れていた。

もうそんな寒さかと島村は外を眺めると、鉄道の官舎らしいバラックが山裾に寒々と散らばっているだけで、雪の色はそこまで行かぬうちに闇に呑まれていた。」


どうですか? 汽車は走り続けているのかと思いきや、一行目で、信号所で止まったのです。

てっきり汽車は走り続けていると思っていました。思い込みって不思議ですよね。

更に、この冒頭を間違って覚えていませんか?

「長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった。」だと思っていませんか?「雪国であった。」が正解なんです。

雪国改版 (新潮文庫) [ 川端康成 ]



雪国は、どこの地方?


新潟県南魚沼郡の越後湯沢。

そして、そもそも、トンネルを抜けた先にある雪国って、どこなんだろう? と思ったことありませんか?

『雪国』の舞台は、新潟県の南魚沼郡にある越後湯沢の、湯沢温泉がモデルになっています。

川端康成は、実際にこの越後湯沢で執筆しており、彼が泊まった旅館は「雪国の宿・高半」と言うところだそうです。

この小説では、列車に乗車しているので、トンネルは清水トンネルですが、

現在では、関越道の谷川岳PA⇒湯沢IC間の「関越トンネル」が、北陸方面への、代表的なトンネルになっています。

トンネルに入る前と後では窓の外の世界が一変します。

関東方面から向かうと、急峻な谷川岳を貫き出た先にあるのは、

魚沼産コシヒカリで有名な田園地帯で、冬は白の世界です。

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『雪国』のあらすじ。



東京から文筆家の男が越後湯沢にやって来た。

東京で親の遺産できままな暮らしをしている、妻子持ちの文筆家の島村は、国境の長いトンネルを抜け、雪国へやって来ました。

同じ汽車には、美しい声を持つ葉子と言う女が、病人を連れて乗っていました。

その病人は腸結核で命が長くないため、帰郷したそうなのです。

島村は、その年の5月に雪国の温泉場を訪れ、芸者の駒子と深い仲になります。

そして、許嫁の療養費を稼ぐために、芸者になったという駒子に惹かれたのです。

そして冬、知り合った駒子に、会いに来ていたのでした。

駒子は若い時に東京に売られ、その後、身請けされましたが、

その相手が1年半で亡くなり、今はこの雪国で、踊りと三味線の師匠の家に、身を寄せていました。

そして、その三味線の師匠の息子が、葉子が連れていた病人の行男でした。

島村が、久しぶりに会う駒子は、芸者になっていました。

駒子からの一途な愛に、妻子持ちの島村は、良心の呵責を覚えながらも関係を続け、

駒子の許嫁と噂される、行男の恋人であった葉子に対しても、惹かれ始めていったのです。

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トンネルが「もうひとつの世界」の入口?



小説の冒頭のトンネルがキーワード?

島村と駒子の機微なやりとりが、トンネルの向こう側にある「雪国」で夢想のように展開され、

美しくも悲しい物語が繰り広げられていきます。

親の遺産できままに暮らしながら、妻子があるにも関わらず不倫を続ける島村。

トンネルの先には、島村にとって、「もうひとつの世界」があって、トンネルがそこへの入口だとすれば、

冒頭の文章は、とても重要な一文に見えてきます。

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川端康成の生い立ち。



幼なくして両親を亡くした川端康成。

1899年に大阪で生まれた川端康成。旧家育ちの開業医だった父と、資産家の令嬢であった母の間の長男として誕生します。

川端康成が2歳になる前に父が、3歳になる前に母が病で亡くなってしまいます。

幼なくして両親を亡くした川端康成は、命というものの儚さを知ることになり、

また、両親への憧憬の念を強め、それが、後世の作品にも色濃く影響を与えることに、なったと言われています。

青年期に、作家であり実業家であった菊池寛によって、その才能を見出された川端康成は、

身寄りがなかったこともあり、菊池寛の援助を受けて、生活しています。

その時、文学に関わりを持つ、色々な人を紹介されました。

そうして出会った芥川龍之介とは、共に過ごすような交流がありました。

また、三島由紀夫は、川端康成に見出されて、文壇へ本格的にデビューしたのです。

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